最寄り駅のそばにある鍼灸院に通って2か月が経った。
初めての診療日のカウンセリング。あらかじめ送信していたカウンセリングシートに目を通しながら既往歴や主訴など確認し、先生の質問に答えていった。
鍼灸師の先生の、穏やかで真っすぐなその眼差しが、ある質問に答えた私に対して、瞬間カチリと私の両目に焦点を定めた。
その頃の私は、人に気持ちを尽くしてしまうことに、心身が憔悴しきっていた。
その憔悴の原子を、心理学上分かっているつもりで、実体が分かっていなかった。
先生は私に、「体が良くなったら、どうなりたいですか?」と訊いた。
私は、「〇〇と上手くやれるようになりたい」と〇〇に身近な人物を当てはめて答えた。
そのときだった。先生の眼差しが私をロックオンした。
「もう一度訊きます。もし体が良くなったら、どうなりたいですか?」
私は捉えられた両目から涙がはらはら流れていくのをどうすることもできないまま、
「今ここで言うときだよ!」。縮こまった胸のあたりから、叫び声の音圧を感じた。
先生の黒目から発する磁力に抵抗できず、互いの水晶体を捉えながら、なにかに導かれたように答えた。
「ただいるだけでいいと思える私になりたい。」
そう言うことに、なぜか自白するような気持ちになった。
そうか。私は、ただいるだけでいいと、自分を認めたいんだ・・・
そう吐き出した私に、先生は「その一言が出たらもう良くなる方向に向かっています。」と笑顔で言った。先生の目はそのときもう、焦点を緩めていた・・・
現実になんとか対応しようと外側に向いていた私の意識が、内側に向くと決意して顕在化した瞬間。
この時点で、私の体は限界点にありながら、精神性はすでに準備が整っているから結果は早いですよ、と前置きされた。
先生の手から感じる「氣」。とても温かく、触れられるだけで緩んでいき、鍼が入ると、刺入点を源流にして電気が走る。とても微細な信号。
そんな2か月を経て、今。ものすごーく首肩が楽。なんといっても脳がニュートラルの状態を覚え始めて緩み、ネガティブな思考をしなくなって、いつも体に意識が宿っている感覚。丹田で吐いて吸うようになった。
氣と意識。そんな見えないものが共振し合い、物質としての体を本来の姿に戻していく。