ネガティブな気持ちを言語化して、自分で自分を救う

感情と共感

働き始めたばかりのAは、仕事先のことで悩んでいた。

配属先の仕事は、自分が希望している業務内容と合致しているわけではないようだった。

Aは自分の希望する仕事内容を伝え、希望と不一致な感覚から生じる不安を、業務担当者に伝えた。

業務担当者は、新人のAの不安を汲んでくれるような配慮はなく、むしろ、Aが希望する仕事にはこんな技量が必要だけど、それって分かってる?など、諭すような言葉で返してきた。

それに対してAは嫌気がさし、それ以上聞いていたくなくなり、話を切り上げた、と言った。

そもそも、会社の人事に対して不満がある。まだ研修も終わっていないのに、突然配属の話が来るし、業務内容も自分の適性を考慮されてのことなのか不明で、勤務地も希望通りとは言えない。

なんで人事も業務担当者もいい加減な対応をしてくるんだろう!

そうAは訴えてきた。

「よく自分の不安を業務担当者に伝えられたね。伝えられたことがすごいよ。」

そうAに言った後、私は続けてAに尋ねた。

Aは、外の世界に出ていくことを怖いと思ってる?
そう訊くと、Aは、「・・・うーん・・・。」

学生の頃、アルバイトを始める時、なかなか一歩が踏み出せなかったよね。

でもAは、考え抜いたあと、家から近い・働く時間が自由に選べて時給がまぁまぁいいところを、ちゃんと見つけて、ずっと続けたよね。

Aはしばらく黙り、ふと、少しうつむきながら、小さな声だったけれど、しっかり率直に話した。

「会社側から、今の自分ができること以上のことを求められていて、ぜんぜんできる自信がないのに、はい、やれます、みたいなこと言ってやってみたあと、相手から『やっぱりこいつダメだ』ってなったら、自分が傷付くのが怖い。」

「そっか。Aは、自信がない、傷付くのが怖いって思ってるんだね。
じゃあ、”傷付くのが怖いんだね。そっかそっか。”って自分を認めてあげて。どんなネガティブな感情もAの大事なものだよ。ネガティブな感情こそ寄り添って、自分を励ましてあげてね。自己理解って、何ができるとかできないとか、そういうことじゃなくって、自分はどんな感情なのかを知るってことだから。」

Aは神妙な顔をして、「うん。」と答えた。そしてしばらくして、
「久々に自分の気持ちとか思ってることを言語化できたなって思った。ずっとこういうことやってこなかったなって。」

「そうだよね。今までずっと、営業の人がこう言ったとか、会社の人がこうだとか、人のことばかり見て言ってたよね。」

「そう。本当にそうだった。」

Aはさわやかに言った。

私は、Aが自分の感情に気付き、そして、”感情に気付いてこなかったこと”を認識できたことがめちゃくちゃ嬉しくなって、

「感情に気が付けた、それと、感情に気が付いてこなかったことに気付いたこと自体が、本当にすごいよ!!」

と高揚した気分で返した。

Aは、部屋を出ていきながら、すっきりした顔を私に向けた。