昨日、7年振りに友人に会った。
彼女は中学生の時、帰国生が受験直前に通う塾で出会い、仲良くなった友だちグループの一人。
塾でたった1カ月一緒にいただけで、同じ学校だったことは一度もない。それでも時々下校後に待ち合わせて遊び、就職して結婚した後も時々飲みに行った。グループの中で連絡が続いたのは、次第に彼女と二人だけになった。そのうち、子供の写真をデザインにした年賀状や、親の喪中はがきのやり取りくらいになった。LINEを交換していなかったから。
大体の友人が、こんな形を経て、実生活で会う機会を失った。それでも彼女については、私の中ではいつか、いつでも、会いたくなったら会えるだろうと思える相手で、関係性の一時停止を安心して放っておける感覚があった。
そして私が年末に出した父の喪中のハガキに、彼女がメールをくれた。
そして、会うことになった。
待ち合わせた瞬間から、彼女は相変わらず彼女だった。
まず、遅刻する!
そして、ノーメイクに飾らない服装。
ちょっと白髪が増えたかな~、とか、顔の感じとか、女だったら目が行く確認事項。
自分との比較ではなくて、以前会ったときからの経時的変化を、自分に流れた時間を確認するように、友人の姿に探してしまう。
前回、そして前々回、また、もっとさかのぼって数十年前のことを彼女は結構覚えているから、驚いてしまった。私がこの時、こう話したと、セリフ入りで思い出しては言ってくれた。
そうか、私は、この話も彼女にしていたのか・・という話もあった。
私はほとんど忘れているので、彼女の記憶力は私たちの貴重な記録媒体である。彼女が話す自分のかつての言動を、自分史として、私は自分の海馬に再度取り込ませてもらった。
笑い顔、話す口調、落ち着いたマイルドな声、からから~と笑う顔、真剣に話を聞く優しい目、「疲れる」「めんどくさいと思っちゃうのよね」という言葉遣い。
もう、ぜんっぜん変わらない。
友人の変わらない様を感じて、ホッとしたり懐かしくも楽しくもなるのは、郷愁に似た、暖かい記憶をたどる作業に似ている。
そして、私たちは同様に年を重ねてきた。
肌感覚が不慣れなまま、遠路の通学から急速に母国生活が始った多感な高校生は、馴染めないまま生活基盤を構築し、子供を育て、現状と折り合いをつけながら、こうして西東京の町のスタバでコーヒーカップの取っ手を宿り木に、3時間話し続けた。
そんな中、私はひとつ、彼女の中に、新たな発見をしたのだ。
彼女が別の友人に、「ねぇ、昼間なにやってんの?」と訊かれた、という話で、有償ボランティアの活動をしている彼女はフルタイムで働いているわけではないため、「きっと暇だと思われてんだろうなぁ~」と呟いた。
私はその、「ねぇ、昼間なにやってんの?」の言い方が、ちょっと軽く見るように聞こえた、「〇〇(友人の呼び名)ちゃん、”昼間なにやってんの?”って言われて、どんな気持ちになった?私だったらちょっと見下された感じで、傷付いちゃうかも。」と言った。
すると友人は、「きっと暇だと思われてんだろうなぁ~って思って」と、さっきと同じ語句で答えた。
私は、「だから〇〇ちゃんの気持ちは?”きっと暇だと思われてんだろうなぁ~”、は、〇〇ちゃんが想像する相手の思考でしょ?〇〇ちゃんがそう言われた時の感情はどんなだったの?」ともう一度聞いた。
すると友人は、「え?気持ち??・・・えー、自分の感情がどうだったかなんて、初めて訊かれた。考えたことなかった!」と言ったのだ。
私はこのセリフに、なるほどな、と思うと同時に、7年前のことを思い返し、そうだろうな、と思った。
友人は、ものすごく記憶力がいい。
一方、私はほとんど記憶がない。
でも私は、彼女と会ったときに「自分がどう感じたか」を覚えている。
よくよく聞いていると、彼女の話には感情表現があまり出現しない。
それでも、話の端々で、彼女は目に涙を浮かべてはハンカチを取り出す。
泣くような内容の話ではない。彼女が集う趣味の会で、年配の女性がじっくり話を聞いてくれる、という話。
嬉しい。ありがたい。ホッとする。安心する。暖かい。・・・そんなふうな気持ちが伝わってくるよ。
私は彼女の涙する姿から、私が感じた、彼女のそんな感情を紡いだ。
そう言うと彼女は、「そうか、感情って、そういうことか・・・。へぇ~、そっかー!」
と感嘆して、納得したようだった。
実は7年前の前回、私たちはランチのコース料理を30分足らずで、最後のコーヒーを一口しただけで、席を立たなければならなかった。
当時、彼女は、息子さんが小学校に上がったばかりだったから、時間がない彼女と少しでも話せるようにと、私は彼女の自宅のある駅まで出向いたのだが、彼女が予約した店が、なんと駅から歩いて1時間程もかかる場所にあった。
そして彼女は当日、待ち合わせ場所に遅れてきた。
店まで往復2時間。せっかくのランチタイムに、ほとんど時間が取れなかったのだ。
店を後にすると、息子が先に帰宅することを心配した彼女は、自分は近道して自宅に帰るからと、「じゃあここで!」とあっさり私を置き去りにした。
私は思わず、「え!?ここで別れちゃうの?私、駅まで分かるかなぁ」というようなことを言った。
すると彼女は、「あ、そうだよね。ごめんね!」とハッとして、少し先の交差点まで共だって向かい、そこから駅までの道順をざっと私に説明して、「じゃあ◇◇(私の呼び名)ちゃん、またね~!」と元気よく自宅の方向へ走っていったのだった。
だから私は、事前に「今回は時間ありそうですか?前回は移動でランチがバタバタしてしまった感じで、少し残念だったんだ。だから今回は、〇〇ちゃんとゆっくりお話しできたらなと思っています。」とメールで予防を講じた。
それに対する彼女の返事は、「前回よりは時間はあるにはあるのですが、・・・中略・・・ゆっくりお話しメインでしたら駅前にしましょう!」というものだった。
昨日、彼女に言いそこなったから、ここで突っ込んでいい?
”7年振り”に会って、話しするのがメインじゃないことって、あるの??
あとさ、感情を感じないでいるから、遠すぎる店に予約したり、私を置き去りにしたりしたんじゃないの??
今回はゆっくりたっぷり話が出来て、前回のわだかまりを回収できたから良かったけどね。
次に会うのは、さて、何年後かしらね。
その時私はきっと、昨日話したこと、あなたが言ったこと、そして私が感じた気持ちを覚えていると思う!